長い夜には手をとって


「東さんが姉貴の話を聞いてから言ったんだよ。『プラスのネジの方がしめやすいのに、何でまだマイナスネジがあるんか知ってるか?』って。いきなり何だ?と思って、知りませんって言うとさ、『人生にはマイナスも必要。そういうことや』って。いいことばかりじゃないから人生っておもしろいって意味かなあと思って、ちょっと驚いたけど、そう言われたら気持ちが軽くなったんだよ」

「おおー」

「姉貴が居なくなっちゃって、どうやら生きてるらしいけど、たまに凄く一人ぼっちになった気がする時があるんだ。だけど、東さんが言うの聞いてたら気が軽くなった。何か、ストンって腹に落ちる感じなんだよね。あの人の言うことって。一瞬、え?って思うけど、言い方が独特というかさ・・・あれが大阪文化なのかな」

「ああー、それ判る。昨日も帰ってきたときに二人があまりにお酒臭かったから、私が臭いって言ったの。そしたら東さん、水臭いより酒臭いほうがマシやろ、だって」

 私が言うと、伊織君が笑った。俺あの人好きだな~って。

 ご飯の間中、東さんの話で私達は大いに盛り上がった。急にきて急に去って行った、この家のオーナー。伊織君も好きになったみたいで嬉しい、私はそう思った。

 食事の後、食器を洗って片付けてくれた伊織君が部屋着の上にダウンコートを着たから、私は不思議に思って聞く。

「あれ、どこか行くの?」

 って。すると彼は人差し指ですいっと庭の方を指差す。

「俺、蛍族」

 えー?そうなんだ?

 私はちょっとびっくりして、へえ、と声を上げる。


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