長い夜には手をとって


「伊織君、喫煙者なの?全然匂いもないし、知らなかった~。今までどうしてたの?」

 ごそごそと鞄を漁り、彼はタバコとライターを取り出す。それから毛布も持って言った。

「ヘビースモーカーじゃないから、家では吸わなかっただけ。でも怪我してからはずっと缶詰だったから、たま~に外で吸ってたんだよ。そこさ、実は縁側があるでしょ。発見した時嬉しかった」

「あ、そうよね。綾もそこが気に入ってこの家にしたって言ってた」

 実は、この小さな家にはこれまた小さな2畳ほどの庭があるのだ。そしてそこにいくには、台所から階段へいくところにある掃き出し窓を開ける。ガラス戸の向こうには縁側があって、狭いけれど二人くらいなら余裕で座ることが出来る。

 夏場には、蚊取り線香を炊きながら、綾とそこに座ってビールを飲むことも多かった。

 伊織君が見つけたとすれば、きっとあの時だ。ここにきてすぐに庭に放置していた粗大ゴミを始末してくれた時。姉と弟で喜ぶ場所が同じだとは!この姉弟は感性が本当に似ている。

 伊織君はテレビを見る私の前を、ちょっと失礼と言いながら通って、階段前の掃き出し窓のカーテンを開ける。窓を開けた拍子に一気に外の冷たい空気が流れ混んできて、部屋の中に漂っていた夕食の残り香も一気に洗い流されたようだった。

「うわお、寒い!」

 思わずそう言ったら、ガラス窓を閉めながらごめんって伊織君が謝る。

 窓が閉められて、またテレビの音が戻ってきた。


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