長い夜には手をとって
「うん、確かに、家の中で飲むより美味しいかも」
私がそう言うと、彼は、でしょ?と微笑んだ。
東さんが全身で表現したように、くれたチョコレートは口が痺れるかと思うくらいに甘かった。私がううう!と唸りながら食べるのを、伊織君はケラケラと笑ってからかう。チョコレートとコーヒーを交互に口に入れていると、ほわほわとした幸福感が湧き上がってきた。
「ふふ、幸せを感じる。この組み合わせが最高なんだよね」
「そうそう。チョコとコーヒー。すごく合うよね。それに、タバコとコーヒーも」
口から紫煙をゆっくりと吐き出して、伊織君があれ、と空を指差した。
「ん?オリオン座?」
星にはちっとも詳しくないが、私でも知っている冬の星座だ。伊織君は、そう、と言って、タバコを咥えたままで言った。
「あれくらいしかハッキリと判らないんだけどね、あれって一度覚えたら簡単にみつかるでしょ。それで、学生の時にオーストラリアにいたことがあって、あっちでは夏の星座なんだよね。季節が逆だから。星座も反対に見えて。でさ、あれ・・・今はハッキリ見えないんだけど、左上に小さな星があるんだ。それが、すげー良く見えてた。それで、子供の頃、‘オリオンのため息’って呼んでたんだよ」
「オリオンのため息?」
伊織君が指差す方向を私はじっと見る。だけどオリオン座はよく見えていても、彼がいう左上の星がどれだかは判らなかった。
「勝手にね、そう呼んでた。星座がため息ついてるみたいだな~って思って」
「へえ」