長い夜には手をとって


 今でこんなのだから、伊織君の顔を見れば、きっと、どっぷりと、それこそ頭まで恋愛モードに浸かってしまうに違いない!

 そんな風に実に騒がしく色々考えてみたりしていたから、過ぎていく顔を合わせない日々がその偉大な力を発揮して私をクールダウンさせてくれたことは大変感謝した。

 日にち薬ってこういうことも言うのかも・・・。それは違う?まあいいの、私には有難かったんだから。

 頭が冷静になり、彼のことは十分気になっているけれど、今はまだ耐えられる、という状態を維持出来たのだ。仕事も放り出して彼に会いにいき、胸倉掴んで一体君は私のことをどう思ってるのかなどと聞いたりはせずに済んでいる。

 かーなり、しんどかったけれど。

 伊織君に彼女はいない(って、いつかの夕食で言っていた)し、私にも彼氏はいない。だけどお金と綾という微妙な繋がりがある私達は、お互いが気に入ったからなんて気楽には、恋愛状態にはなれそうもないのだ。

 好きになっちゃった、それは良いことだ!みたいには。ついでにもう同じ家に住んでるし、ラッキー!みたいには。

 伊織君の申し出と同居により、私には確実にお金が貯まってきていた。それは以前のように爪の先に灯りをともすようにしていた時とは全然違って、毎月ガンガン貯まるのだ。長年培った節約生活は簡単には抜け出せず、最初の頃こそ好きな物を買ったりしていたけれど、今ではそんなに物欲もない。ここ3ヶ月、毎月家賃の分は必ず貯金できている。


< 127 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop