長い夜には手をとって
「うん、最初に俺がここに来たときにね。そうか、あの人が。まあでも格好いい人だったよね、外見恵まれてて金もあったら、そりゃ自信満々にもなるかも」
「そう。それが魅力の一部でもあるよね。自信がない人より、自信がある人の方がよく見えるのは仕方ない」
伊織君から反応がないので、私はカップから目を上げる。すると頭にかけたタオルの淵からじいっとこちらを見ている伊織君と目があった。
「・・・何?」
「それで?何で二人で微妙な場所でしゃがみ込んでたの?」
うう・・・頭痛がする。私は頭を片手で抑えながら小声で言う。
「・・・復縁を迫られたの」
「おおー?もしかして、また会おうって連絡が来て、それで今日はドレスアップして会いに行ったってこと?」
伊織君がいつもより格段にお洒落をしている私を指差す。
「え?ああ、いや、これはそうじゃないの。前の会社でお世話になった人が自分の事務所作ってね、そのお祝いの会場でたまたま彼に会ったの」
「へえ」
私はソファーからヨロヨロと立ち上がった。コーヒー飲んだばかりだけど、今晩はもう寝よう、そう決めて。
「あの人、色んな女性と付き合ってみて、私が一番マシだったって思ったんじゃない?もしかしたらコントロールしやすいって思われたのかも。だけど、私はもうそんなつもりはないから、とにかく逃げようとしてたってこと。そこに君が現れてくれて、あの人が勝手に誤解したので、助かりました」
「ああ、確かに誤解してたねえ。修羅場はごめんとか何とか」