俺様社長と付箋紙文通?!
コーヒーショップKはすんごい賑わいだった。窓側の席を待つ人の列と、ほかの席を待つ人の列があって、私とテツ子さんはほかの席のほうに並んだ。聞くと窓側の席のひとは3時間も待っているらしい。

1時間ほどして私たちは通された。窓側から2番目の比較的いい席だった。ケヤキの向こうに赤いドーナツカーも見える。なるほど、確かに雰囲気がいい。人気のカフェラテを注文してテツ子さんと話をする。


「ボス? ああ、ボスね。秘書がお仕えする上司のこと」
「そうなんだ。ふうん」


つまりはバリキャリ女史はどうやらお偉いさんの秘書のようで、そのお偉いさんがドーナツを食べているらしいということだ。なんとなく納得した。あのバリキャリさんは有能な秘書なんだろうって。そんな匂いがする。

匂いと言えばここのパンケーキも人気だ。ガレット風に薄く焼かれた生地にフルーツやホイップクリームのトッピングがされている。一番人気はクリームチーズと自家製エスプレッソシロップのティラミス風。今度来るときは注文しよう。


「テツ子さんは東京生まれ?」
「うん。東京生まれの東京育ち。でも北部でぎりぎり東京ってかんじかな。咲帆さんは?」
「私は西のぎりぎり」
「とちぎの西?」


東京の西、と言おうとしたところで店のスタッフがやってきた。カフェラテが運ばれてきたのかと思ったら手ぶらだ。


「申し訳ございません。席を開けてください」
「はい?」

スタッフの背後には窓からの景色を満足そうに眺めている偉そうなひとがいた。



*−*−*

店長は急いでスタッフをかき集め、あたりに座っていた客たちに席の移動を促した。それぞれに客たちは不満そうにしたが、俺がにらみつけると早々に立ち去った。

空いた席に腰かける。

取材の準備が整う間、俺は赤い屋根を見つめた。あそこのなかに付箋紙の彼女がいると思うと胸の中が温かくなる。店じまいしたのか、車の前にひとだかりはない。片づけをするために彼女が車から出てくるところを目にすることができるかもしれない。


「あの!」

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