俺様社長と付箋紙文通?!
ほんとうに来てしまった。一応手土産にドーナツ10個セットを箱詰めしてきたけど、その程度の金額では釣り合わない。しゃんと背筋を伸ばして、私は赤く輝く東京タワーを見つめた。



*−*−*

「親父、早くしろよ」
「いわれんでも急いでるわ。ぐひひ」
「笑うな!」


秘書の宮下は余計なことを漏らしてくれたものだ。今夜まるこぽーろの予約を入れた話を親父の耳にいれた。俺が女と会うために予約するのは初めて……ではないが、めったなことではないので、親父が浮足立っている。別にドーナツ屋の売り子をどうこうするつもりはない。ただ、うまいドーナツを提供してくれるお礼と、付箋紙に書かれた温かいコメントの礼をいいたかっただけだ。ちょっと夕飯をおごるだけた。なにを勘違いしてるのだ、ふたりとも。

地方での打ち合わせが長引いて、親父に無理な運転を強いている。別に遅刻したくないのではない、ただ単に腹が減ってるだけだ。くそ。

ようやく見慣れたビル群が見えて、俺は身を乗り出した。B.C. square TOKYOの53階にこれから会いに行く。いや、飯を食いに行く。飯だ、飯。がたがたと音を鳴らして荒く着地したヘリから飛び降りた。まだ回転している羽から強烈な風をお見舞いされたが、これも試練だと思いつつ、建物内に入るドアに向かって歩いた。

エレベーターを待つのも面倒で俺は階段を駆け下りた。レストランフロアは3階ほど下だ。2段飛ばしで降りた。シャンデリアの仰々しいエレベータホールの脇を抜けて奥のまるこぽーろに向かう。駆け足の俺を通行人がみていたが気にしない。大谷石の壁が見えてくる頃には息が切れて大きく肩を上げ下げしていた。

腹が減ってるだけだ、俺は。
早くテンダーロインのミディアムに食いつきたい。あと、〆のガーリックライス。

入口にいたまるこぽーろのディレクトールが俺に深々とお辞儀をした。お連れ様がお見えです、と平手で促した。俺は大きく深呼吸して店内へと足を踏み入れた。あちこちでジュージューと肉の焼ける音がする。心臓が激しく鼓動する。走ってきたせいだ。
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