俺様社長と付箋紙文通?!
大谷石に阻まれた通路を右に左にくねって、奥の窓が見えてきた。いったん足を止める。屋上のヘリポートから見る景色と大差はないが、いつもより東京タワーがきれいに映っていた。窓側の席は4つだ。4つとも席は埋まっている。カップル、接待らしいスーツの男ども、セレブな年配の女子会、そして女の子がひとり。あそこだ。立ち止まって確認する。

ハーフアップにした黒髪から白い首筋が見えた。襟ぐりの空いた白いワンピースで姿勢正しく凛としている。横顔しか見えないが、二十歳ぐらいだろうか。まつげが長く、二重まぶたの、あの娘が。

俺の足は自然と動いた。ゆっくりそろり、近づくと彼女の姿も比例して大きくなる。

ん? どこかで見たことのある……。
髪飾りにドーナツ、耳元で揺れるピアスもドーナツだ。かわいい娘ではないか。
いや、ドーナツのアクセサリーは売り子なら普通ではないか。何を俺は期待しているのだ。

徐々に半個室にいる彼女に近づく。あと3歩というところで俺の足が止まった。

え? はい?
うそだろ。おい。

あの女は中華レストラン光琳でひとり飯をしていたあほ面で、コーヒーショップKで俺に説教を垂れた女ではないか。

きっちりと座っていた彼女がちらりと下を向いたあと、首を回してこっちを見ようとした。慌ててしゃがみ、俺は大谷石の下に隠れた。

あの女が、あの付箋紙の娘なのか? あんなド田舎女学生モドキが?
いや待て。付箋紙娘とは限らない。もしかしたら付箋紙女が何らかの事情で来れなくなって、ド田舎女が代わりに来た可能性がある。

とりあえず確認してみよう。俺は立ち上がって、緩めていたネクタイの結び目をきゅっと絞った。



*−*−*

腕時計を見る。短針はチョコドーナツとキャラメルツイストの間を指していた。文字盤の数字がドーナツになっているおもちゃの腕時計だ。7時半。約束の時間を30分も過ぎている。入口のほうを見ると、何かが動いた気がしたが、スタッフのひとがいるだけで誰もいなかった。あちこちで炎が上がる。きゃあともわぁとも区別のつかない歓声が上がった。ボスさん、来ないのかな。ひょっとしてすっぽかされたとか。私みたいな田舎者をからかうために私をここに呼んだとか。
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