俺様社長と付箋紙文通?!
俺が二世社長と知ったのか、それとも若い会社だと馬鹿にしたのか。ピクピクと自分の眉が引きつるのが分かる。俺の表情を察知して宮下は淡々と説明を始めた。こいつと組んで2年目になる。宮下美紀、32歳。俺より3つ年下にあたる。沈着冷静な宮下は多少高めのヒールを履いているとはいえ身長180センチの俺とさほど差はない大女だ。


「……という事情です。簡単にいえば地主が足元を見たんでしょう」
「けしからん!」
「設楽社長、落ち着いてください。血圧が上がりますから」
「俺は年寄りじゃない。この前の健康診断の日は徹夜明けで体調が優れなかっただけだ!」
「だからです。いつも仕事ばかりで体調が良くない日ばかりではありませんか。今日も寝不足ですよね。おおるりの操縦士がぼやいてましたよ、昨夜も午前様だと」
「親父は放っておけ。ちゃんと残業手当も深夜手当もつけている。そもそもヘリの操縦がしたいから俺の送迎をしているだけだろうが!」
「そういう問題ではありません。お父様も65歳ですよ、無理をさせてはいけません。夜中の2時まで待機させて翌朝8時に出勤なんて、社のコンプライアンスに引っかかります。社長ご自身が無理されるのまだしも、お父様は従業員扱いですから」
「ふん。で、今日の予定は」
「はい。午前中は社の定例会議、会議室です。そのあと昼食を兼ねてクロサワ会計事務所から会計報告を受けてもらいます。午後は仙台支社長との面談、新店舗建設予定地の視察です」
「新店舗予定地というのは」
「とちぎです」


親父は第一線から引いたが、SITARAホールディングスグループ会長、兼、俺の送迎係としてヘリコプターを操縦している。東京の西のはずれにある俺の自宅との往復と近県視察で自家用ヘリを使う。以前はヘリも操縦士も運航会社から借りていたが、以前からヘリのパイロットになりたがっていた親父はこのビルが完成すると早々に引退し、操縦士の資格を取った。二世社長の俺をサポートするという理由をつけて自家用ヘリを購入し、乗り回している。とちぎだとヘリで移動か……また親父の監視つきか。まあいい。不動産コンサルタント業という職業柄、不動産一本でここまで成り上がってきた親父の意見も参考にしたほうがよさそうだ。


「あ、それから。社長のご友人のウォールさまからのご依頼でビル玄関前のエントランスパークに移動販売車が来ています」
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