俺様社長と付箋紙文通?!
ぶるんぶるんとかぶりを振る。そんなはずはない。話をしようと誘ってくれた彼の気持ちは本当だと信じたい。ドーナツの礼をしたいっていう彼の言葉を。でも時間を過ぎるなら連絡をくれてもいいじゃないか。私の連絡先を知らなくても店に電話をすればいいだけの話なんだし。

ふう、とため息をつく。それと同時にポンと頭を叩かれた。


隣に誰かが立っていた。淡いグレーの、三つ揃えのスーツ。ブルーのシャツ、黄色いネクタイ。浅黒い首にのどぼとけ。見上げると首が痛くなるほどの長身ガイ……。

っていうか。なに。
なんでこいつがいるの??


「お前、何してるんだ、ここで」


いたのはあのムカつく男だった。どこぞやの社長で、偉そうにしてるやつ。中華レストラン光琳では強引に割り込みし、私の目の前でエビチリを食べ、コーヒーショップKでは私に喧嘩を売ったわがまま男。このビルのオーナー、設楽シャチョーだった。

シャチョーは見下したように鼻を鳴らすと椅子を引いた。


「ちょっと、座んないで!」
「待ち人来たらずって顔に書いてある」
「書いてない。っていうか本当に立って!」
「別にいいだろう。本当に誰かきたらすぐに席を譲る」
「譲るってあなたの席じゃないでしょ!」
「なんでそう、むきになるんだ?」


大きな瞳でぎょろりとのぞかれて、私はどきんとした。だってこれから憧れの付箋紙の人に会うんです、とこんな男には知られたくない。こんな男に彼を見られたくない。


「ど、どうでもいいでしょう? あなたには関係ないの!」
「ふうん。気になる」
「なにが」
「お前みたいな田舎モンのへんちくりんを相手にする男の顔」
「へ、へんちくりんですって! あんたこそ無駄に背が高い男なんて」
「無駄で悪かったな」
「あと無駄にプライドも高いのも嫌」
「そうでもないがな」
「そういう意識足りないところも嫌」
「嫌づくしの男で悪かったな。で、男ってどんな男だ?」
「男なんて言ってないし」
「そうか?」
「男だってなんだっていいでしょ。少なくてもあんたみたいなプライド高くてわがままし放題のひととは違うの」
「へぇ」
「いつもドーナツのお礼を書いてくれて、おいしいっていってくれて、いい人なの」
「ドーナツ食えばみないいひとなのか」
「そ、そういうわけじゃないけど……っもう。彼が来るからどいて。変に誤解されたくないのっ」
「誤解ねぇ」
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