俺様社長と付箋紙文通?!
あちこちから楽し気な会話や歓声が聞こえて余計に寂しくなる。もう来ないかもしれない。そもそも、今夜は私をからかうために誘ったのかもしれない。高い食事を予約して、私一人に食べさせて、私に代金を支払わせて面白がる意地悪なひと。最低な男だ。癒しのドーナツが食べたい、なんて言葉で釣っておいて。人の良心を測って楽しむなんて。

社長業の人間なんて、みんなそうなんだろうか。ボスさんといい、設楽シャチョーといい。

太ももの上で拳を握る。ひどい。

そんなことを考えていると、突然、へんてこなおじさんが現れた。
スキンヘッドに赤のねじり鉢巻き、革のジャンパー。


「どーもー♪ 社長がトラブルがあって来れなくなりましたってよぉ」



*−*−*

数時間して戻ってきた親父はドーナツの箱を抱えていた。社長室に戻ってくるなり、満足げにゲップをする。恨めしい。ゲップはにんにくの匂いで、ガーリックライスを食してきたことがわかった。まるこぽーろのガーリックライスは絶品なのだ。くそ。心の中で地団駄を踏んでいると、親父は見透かしたように、ふふん、と鼻を鳴らした。

親父が持ち帰ってきたドーナツは10個入りだった。腹が減っていた俺は即座にかぶりつく。


「ふん。別に構わん。俺はまるこぽーろのガーリックライスが食いたかっただけだ」
「今夜の食事はさきちゃんへのお礼だったんだろ。さきちゃんが食えたんだから本望だろうが」
「さきちゃん?」
「へええ」


親父は再びぐふふと笑った。なんだ丈浩は彼女の名前も知らんのか、とせせら笑った。くそ。彼女の名前も知らないが、ちゃん付け呼ばわりする親父にも腹が立つ。若い娘を近しく呼ぶ色めきだった老人めが。自分の年を知れ、じじい。


「泣いてたぞよ」
「知るか」


別に構わん。あんなガサツな田舎娘。俺には関係ない。


「丈浩も罪よのう」
「だから俺には関係ない」


さっきの光景がよみがえる。
瞳に涙を浮かべて。必死に耐える彼女の顔。あんなにも俺を待っていたなんて。
俺が付箋紙の相手だっていえばよかっただろうか。
いや、でも俺が相手だと知ったらがっかりするに決まっている。

これでよかったんだと俺はひとりごちた。箱の中のドーナツをひとつ残らず完食した。



*−*−*

「で、で、でぇ?」

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