俺様社長と付箋紙文通?!
翌日、ドーナツを完売させたあと、私は管理人室にいた。腕時計の短針は3とツイストドーナツの間、つまりは3時半だ。田中さんは6階の空調の具合が悪いと報告を受けて、確認にいって留守だ。田中さんを待ちながら、テツ子さんが2階のコンビニで買ってきた揚げせんべいでティータイム。テツ子さんに、お仕事抜けて大丈夫なの?ときくと、いつも雑用であちこち出かけてるからいなくても怪しまれないとのこと。彼女は大好きなせんべいにも目もくれず、テーブルの向かいにって真ん丸な目をさらにまあるくして、ぐいと身を乗り出している。

私はエレベーターホールで彼女と別れた後の出来事を順を追って話した。53階のレストランの床は大理石で、ショッピングモールのフードコートとは違ってすんごい静かだったこと、まるこぽーろの入り口には年配のボーイさんがいて90度に腰を曲げて挨拶されたこと、大谷石で仕切られた半個室で予約された席は窓側の静かな席だったこと、あちこちの席でフランベの炎が上がってきれいだったこと。そこまではテツ子さんは頬杖をつき、うっとりして私の言葉に耳を傾けていた。しかし。


「でも30分待っても来なくて」


と言った瞬間、緩んでいた彼女の顔が突然真顔になった。頬杖をついていた手もテーブルに戻した。


「ええ?」
「でね、ずっと待ってたら設楽シャチョーが来たの」
「設楽オーナー? なんで」
「視察に来たんだって。高層階のレストランはB.C. square TOKYOの顔だからマメに顔をだしてるみたい。で、私のことさんざん馬鹿にして、シャチョーが出てったあと、変な人が来たの」
「変なひと?」
「60代くらいのおじさんなんだけど、白いジーンズに黒い革ジャン着て、頭に赤のねじりはちまきで。ボスのお抱え運転手で、今夜は社長は急用で来れまくなりましたって言われて」
「なにそれ。怪しい。本当に運転手なの、そのおじさん」
「うん。ボスはキャラメル生地のホワイトチョコがお気に入りで、かんぴょう入りも意外にお好みらしい、とか言ってたし」
「なんか腑に落ちないけど……。それから連絡は来たの? 埋め合わせはしてくれるんでしょう?」
「うん、一応。付箋紙に」
「見せて見せて」

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