俺様社長と付箋紙文通?!
クスクス笑う宮下をにらみつけて、もう一度咳払いをした。窓を見下ろせばエントランスパークの石畳の上に赤い屋根が見える。今日も来ているのか。ずっと休みなしで来ているのか。ちゃんと休暇を与えるようにウォールにきつく言っておかねば。スーツのポケットからスマホを取り出し、奴にかける。よほど暇なのかワンコールで出て、どもねー、と軽くあいさつされた。大学で同じゼミを取っていた真壁とはいつも争っていた。試験の成績、合コンで交換したメルアドの数、カラオケの点数。勝負はたいてい五分五分だったが、身長だけは奴に負けていた、1センチ。でも俺の立ち上がる髪質のおかげで俺のほうが長身に見えた。

俺は労働基準法の法律をとくとくと説いて、女学生モドキに休みを取らせろとしかりつけた。女学生モドキ?、ああサキホねぇ、サキホはいいんだよサキホは、と甲高い声で軽く流すので俺は切れた。


「ウォール!、労働基準監督署に訴えられたらどうするんだっ!」


彼女を軽くみるウォールにムッと来たが、それよりも従業員を呼び捨てにするとは何事だ。けしからん。そんな俺の心構えに気づかないのか、サキホに了解を得てるからいいんだしぃ?、とのんきにいう。さっきから黙って聞いていればサキホサキホと下の名を連呼しやがって。

サキホ。サキホというのか、あいつは。


「お前なっ、経営学部卒のお前がそういうことをすると名門成享大学の名が……はあ?」


俺の言葉を遮り、奴はサキホってあそこに住んでたんだよねー、とこれまた軽いノリで言い放った。



*−*−*

両親は東京のはずれの街で不動産屋を営んでいた。不動産といってもアパートやマンションの空き部屋を仲介するのが主な店で、夫婦二人でほそぼそと営業していたらしい。知り合いのツテで郊外にある古い一軒家を譲り受け、私はそこで生まれ、育った。そのころは日本の景気も良く、私は不自由なく暮らしていた。しかしバブルが崩壊して日本経済に影を落とし、その長い影は両親の店にも届いた。わずかに所有していた物件の値がみるみる下がり、仲介するにも借り手も買い手も見つからず、経営は傾き始め、経営難に陥った。店をたたむときには持っていた不動産を二束三文の値で買い取られ、無一文に近い状態で家を追い出された。そして私と両親は母方の祖父母の家に転がり込んだ。
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