俺様社長と付箋紙文通?!
ナッツと水菜のアミューズブッシュ、オードブルはトリュフとスモーク鴨のキッシュ。ニンジンのポタージュ、ポワソンは伊勢海老とずわいがにのグラン仕立て。すべてが彩りよく盛り付けされ、運ばれてくる。口直しのクランベリーソルベは平たいシャンパングラスに乗せられ、かわいい飾り付けが施されていた。そのあとのメインは飛騨牛特選ランクのテンダーロイン。シェフがわざわざやってきて目の前でミディアムレアに焼き上げた。ソースはわさび醤油とホテル特製マディラソース。どちらも薫り高く濃厚だった。フロマージュにカマンベールチーズとブルーチーズ。どちらも国内の高原で作られた逸品。そして最後の締めくくりに現れたのはデセール。こんがり焼けたメレンゲと金の絹糸のごとく輝く飴細工が乗ったオレンジのムースと塩バニラアイス。さっぱりとしたムースに超濃厚なバニラを少し溶かし、ソースにしてからめると口の中で程よく交わる。頬どころか体ごと溶けてしまいそうな皿の数々だった。

金縁デミタスカップに注がれたエスプレッソをなめながら3人でうっとりする。満腹だ。


「そういえばさぁ?」


と切り出してきたのは田中さん。見れば少し真剣な顔つきだ。


「なんですか?」
「とちぎで大きなショッピングモールを作る話があるんだとさ」
「そうなんですか」
「なんでも反対派が動いてるとかでなぁ」


今はあちこちに郊外型ショッピングモールが作られている。私の住むとちぎ市にはそういった郊外型のはない。できてもおかしくはないのだけれど。

エスプレッソを苦そうに飲み込んで変顔になったテツ子さんが口を開いた。


「とちぎに。咲帆さんの家の近くとか?」
「うちは市街地だし、そんな話は聞かないけど。とちぎのどこだろう」
「なんでも麦畑さぶっつぶして作るらしくてよぉ」
「麦畑? それって、大麦? 小麦?」と食いついてきたのはテツ子さんだった。
「どっちだろうなァ」
「もし小麦だったら大変じゃない?」
「なんで」と私。
「だって、ドーナツの原料って小麦じゃないの?」


あったか☆ドーナツで使用する小麦粉はとちぎ産だ。



*−*−*
< 52 / 87 >

この作品をシェア

pagetop