俺様社長と付箋紙文通?!
その問いに、サキホは顔を赤らめるだけで、答えてはくれなかった。
答えないことが、答えだ。俺はふたりは恋仲だと判断した。
*−*−*
設楽シャチョーは平台の上から迷うことなくかんぴょう入りドーナツを取り、私に差し出した。それを横取りするようにウォール社長が紙袋に入れ、設楽シャチョーに戻す。私は500円玉を受け取り、お辞儀だけした。言葉が出なかった。
間違いない、彼が付箋紙のひとだ。かんぴょう入りを見間違うことなく選んだのだ。彼はこのドーナツカーに買いに来たことはない、初めての客ならたいていの人は迷う。迷うし、聞いてくる。どれがおすすめだとか、何が入っているんですか、とか。でも設楽シャチョーはなにも聞かなかった。普段からドーナツを食べている証拠だ。
ウォール社長から紙袋をわしづかみにして設楽シャチョーはビルのなかに消えた。その後ろ姿を見送りながら私はため息をついた。でも設楽シャチョーはバリキャリ女史とつきあっている。バリキャリ女史のボスというのは設楽シャチョーで、設楽シャチョーとバリキャリ女史はつきあってるわけで。仲がいいのは当然なわけで。そんな彼女だから設楽シャチョーの好みを把握しているわけで。
恋に気づいたと同時に失恋だなんて。どきどきしていた胸は、今度はきりきりと痛み出した。
*−*−*
くそ。またウォールに負けた。サキホと奴がつきあっていたとは。兄が狙うものを欲しがる弟のような男だ。俺がサキホを狙っていることを察知して横取りしたに違いない。
狙って?
なぜこの俺がサキホを狙わねばならんのだ。あんな田舎の小娘。
「設楽社長、お呼びでしょうか」
「あの娘の素行調査を頼みたい」
「あの娘とは?」
「あの娘といったらあの娘だ」
「どの娘ですか?」
「だからあの娘だっ」
宮下はクスクスと笑っている。くそっ。
「そういう調査はご自身で行ってください」
「なぜだ。時間の無駄だ」
「無駄なことにこそ意味がある、と社長のお父様もおっしゃっておられますよ」
そうだそうだ!、といつの間にか社長室にいた親父がヤジを飛ばした。今日はピンクのTシャツにじゃらじゃらとチェーンが付いたジーンズだ。
「宮下、親父、うるさいっ! エントランスパークに視察がてらドーナツを買って来い!」
「今日からはご自身でお願いします」
「俺は忙しいんだっ」