俺様社長と付箋紙文通?!
シャチョーは後ろを振り返って列を見ると、回れ右をして最後尾についた。私は拍子抜けした。あんなに傲慢な男が素直に引っ込んだ。面食らってぼうっとしてしまう。いつもいばってる人が素直になるのは妙にかわいい。

だめだ。やっぱり好きだ。

しばらくしてシャチョーの番になる。


「お待たせいたしました」
「きょうはこれをもらおうか」
「ありがとうございます」
「このドーナツの材料……いや、なんでもない」


シャチョーはなにかを言いかけてやめた。私もシャチョーも無言になった。ドーナツを包んで彼に手渡す。三つ揃えのスーツからタイピンが見えた。ひまわりのデザイン、間違いなくあの宝飾店のサンフラワーシリーズだ。


「お前、ネックレスはしないのか?」
「あ、あんなことあとですし、しないほうが防犯になるかと思いまして」
「似合うのにもったいない。付ければいいだろう」
「そ、そうですか。なんか悪い気がして」
「プレゼントされたんだろう? なら、身に着けるのがスジだ」


シャチョーは気難しい顔をして500円玉を私の手のひらに落とすと、ビルに入っていった。ごつい手は骨っぽいくせに細い。あの手に腕に私は抱きかかえられた。でもあの手はバリキャリ女史のものだ。はぁ。



*−*−*

夜のわずかな明かりでもダイヤはせっせと光を拾って反射する。せっかく買ったネックレスも身に着けてもらえなかった。このタイピンとお揃い……シークレットおそろになるはずなのに。くそ。宮下の罠にまんまとはまっているではないか。

親父に自宅までヘリで送ってもらい、屋上のヘリポートから家に入る。ダイニングには誰もいない。ラップのかけられたおかず、保温のランプをともらせる炊飯ジャー、箸置きに箸、伏せられた茶碗。住み込み家政婦といっても叔母だが、とりあえず仕事はしてから就寝した模様だ。

母が亡くなってからこうして食事の用意と洋館の掃除、庭の手入れなどをしてくれている叔母だが、そろそろ年だから解放しろと要求している。そのくせ、家政婦派遣を依頼するとあれが気に入らない、これが気に入らないとすぐにクビにしてしまう。小姑のような存在だが、早く嫁をもらえ、とのことらしい。妙に回りくどいのは親父と同じだ。
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