俺様社長と付箋紙文通?!
「まったく誰のせいだと思ってるのよ」
「え?」
「なんでもないわ。じゃあ」


そう言い残して彼女はビルに消えた。なんだろう。私、何かしてしまったらしい。



*−*−*

きょうのドーナツは新作のようだ。相変わらず棒がついているが形状は丸ではなく、細長い。こん棒のようだ。思い切ってかじると中にはソーセージが入っていた。ロングアメリカンドッグだ。細長い形状は高層ビルを思い起こさせる。スーツのポケットから電子音が聞こえた。


“咲帆が泣いてるよーん。びよよよーん♪”


悪友ウォールからのメールだ。自分の恋人が泣いているというのに、なにをのんきなことを。まったくけしからん奴だ。すかさず画面を通話に変え、奴を呼び出した。どもー♪という軽いあいさつにぶち切れた。


「どもー♪じゃないだろう! なんだ、今のメールは」
「だからハニーが泣いてるしぃ」
「お前が泣かせたんだろうが」
「俺じゃないさ。タケちゃんだよ」
「なぜ俺が泣かせるんだ」
「小麦畑をつぶすから」
「いたしかたあるまい。仕事だ。忙しいんだ、切るぞ!」


かけてきたのタケちゃんじゃん?という声が聞こえたが無視して切った。くそ。なんでふたりののろけ話を聞かなきゃならんのだ。

ああ、せめてサキホとの思い出がほしい。何かないものだろうか。



*−*−*


バリキャリ女史の番になり、彼女はカードを差し出した。中には付箋紙、いつもの紫がかったインクのくせ字だ。思わず顔がほころぶ。久々の付箋紙だ。


“このB.C. square TOKYOをイメージしたドーナツが食いたい”


「え?」
「このビルをイメージしたドーナツを作ってほしいって」
「なんでまた」
「さあね。そうそう、この店、期間限定なんでしょう?」
「あ、そうでした。いつまでだったかな……来月いっぱいでした」
「エントランスパーク出店記念になにか作ってほしいそうよ」


きょうはアジアンいただくわ、といってバリキャリ女史は小豆生地にココナッツのかかったドーナツを手にした。この長身美女なら背伸びなんかしなくても設楽シャチョーとキスできるんだろうな、なんて想像してしまった。片思いの相手を目の当たりにするのはつらい。

でも東京での販売が終わるなら、それと同時にこの拷問も終わる。私は付箋紙に“なんか面白そうですね☆考えます♪”と返事を書いて貼り付けた。
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