俺様社長と付箋紙文通?!
ヘリは頑丈な鉄と強化ガラスでできている。ドアが開かない限り落ちることはないが、今のサキホにはそんな説明をしても不安をあおるだけだ。俺は彼女の肩をさらに抱き寄せ、彼女の顔に向かってほほ笑んだ。そして顎で窓の外を指す。サキホは不安な表情で俺を見つめる。俺はうなずいた。そっと横に体を向けるサキホ。その喉元にはサンフラワーシリーズのダイヤが輝く。白い肌、きれいな鎖骨。彼女が振り返るように窓の外を見る。細い首とうなじ、おくれ毛。触れたいのに触れられないとはそっちの意味でも拷問だ!


「うわぁ……」
「どうだ?」
「きれい。かわいい。本当にハート型なんですねぇ」
「ああ」


そのハートは俺とサキホのハートだ、と心の中でつぶやいた。
でもサキホの中ではウォールとのハートなんだろう。



*−*−*

夕闇に浮かぶ渡良瀬遊水地が小さくなって、ヘリコプターは高度を下げた。あたりは土がむき出しになった畑。小麦はまだ植えられたばかりだ。農協のだだっぴろい駐車場に着陸した。ドアが開いて設楽シャチョーの手を借りて降りた。ぴゅうと北風が吹いて首をすくめる。ヘリのエンジン音が切れて、操縦士も降りてきた。赤いバンダナのねじり鉢巻き、膝の破けたジーンズ。まるこぽーろで食事に付き合ってくれたおじさんだ。本当に設楽シャチョーのお抱え運転手だったんだ。


「お前は何でドーナツの売り子をしている」
「東京からとちぎに越してきて、最初のお友達がウォールさんだったんです」
「ウォールが?」
「はい。ご近所さんのご子息で、学習塾の先生をしてたんです。それで勉強を教えてもらっているうちに、まあ、ああいう方なので」


ウォールさんは名門の成享大学をでたあと、地元とちぎにもどって会社員になった。でも型にはまった仕事が嫌いな彼は3か月で学習塾の先生になった。小学生や中学生には人気があって、入塾してもウォールさんのクラスには入れなかった。東京から逃げるようにやってきた私を気にかけ、ご近所特別枠でクラスに入れ、親切にしてくれた。私を一人前のレディとして扱う彼は当初から私をハニーと呼んだ。ひとり息子の彼は私を妹のようにかわいがってくれる。そんなご恩返しもあって、私はあったかドーナツの社員として働いている。


「親切にしていただいた恩返し、みたいなものでしょうか」
「恩返しでウォールとそんな関係を続けているのか」
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