俺様社長と付箋紙文通?!
エレベーターホールに行くと、先はフォークみたいに4つに枝分かれしていた。ホテル直通、アッパーフロア直通、ミドルフロア直通、低層階フロアとそれぞれに行き止まりの空間があって、そこにはエレベーターが何基もあった。この4つのほかにも奥にエレベーターホールがあるようだったけど駅の改札機みたいなゲートがある上に「VIP only」と表示されていた。スカイブルーの警備員もいて仰々しい。光琳は7階、手前のこの低層階エレベーターだ。私はワクワクドキドキしながら乗り込んだ。

このチケットは6、7階のレストランならどこでも使えるらしい。ランチメニュー2000円相当のものと交換できると書いてある。でも私はもう決めていた。大好きなエビチリを食べるため、先週オープンしたばかりの光琳という中華料理屋さんにいく。

ドアが閉まるとしんと静まり返る。上にはモニターがあって、企業CMやくらしのワンポイントアドバイスが流れていた。風邪予防には歯磨きも有効だ、とか、うがいには塩水もいい、とか。1階で乗り込んだ人たちが各階で降りていって、7階に到着する時には私ひとりになってしまった。どことなく心細い。

開いたドアからおりると、ぷん、とごま油の匂いが鼻をついた。目の前に金の縁取りの赤い看板がででーんと掲げられていた。目的の光琳。私はうわ、と声をあげた。もう14時近いというのに行列ができていたからだ。とりあえず最後尾に並ぶ。エビチリを食べたいけれど、自分の番が来たときには優に14時を過ぎている。ランチのオーダーストップは14時だから、並んだ時点で14時前でも、それは有効にはならないだろう。そしたらこのチケットは使えない。

店の中から女の人が出てきた。スレンダーな体にフィットした黒いスーツ、黒ぶち眼鏡、エナメルのパンプスはもちろん黒く光っている。にこりともしないクールな表情で、いかにもできるビジネスウーマンといったところだ。その黒い女性は背の高い男の人の前で立ち止まった。彼は背が高く、仕立てのよさそうなスーツをまとい、ウェット感のある整髪剤でまとめられた髪は癖のあるショートレイヤー。私からは横向きで、鼻が高いのがわかる。すごく難しそうな顔をしていた。あの背の高さじゃ、うちの玄関のドアにおでこをぶつけてしまうんじゃないか。


「社長、お席のご用意ができるまでお待ちくださいとのことです」

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