俺様社長と付箋紙文通?!
シャチョーが強引に私の手首をつかむ。ぐいと引き寄せられて私はバランスを崩した。彼の胸に寄り掛かる。彼の鼓動が聞こえる。ドキドキドキ……あれ、速い?

ぐい。さらに私は抱きしめられた。


「無事でよかった」
「あ、の……その……」
「だめだ、すまない。少しこのままでいてほしい」


ぎゅうと抱き締められて、息が苦しくなる。シャチョーはなぜ、私を抱き締めるんだろう。ドキドキして胸が痛いのに、このままシャチョーの腕のなかにいたい。


「お前は昔、西のはずれにある洋館に住んでいるといっていたが、そこを買収されたときはどんな気持ちだったか覚えているか? 毎晩泣いたといっていただろう」
「はい。天蓋付きのベッドがあって、あのベッドで寝るとどんなに落ち込んだことがあっても立ち直れたんです。なんていうか、自分がお姫様になったみたいで、癒されたというか、現実逃避というか」
「買い取った人間を恨んでいるか?」
「いえ。引き渡すときに、大切に使う、いつか買い戻しに来てほしい、と言われて、とてもいい人に買い取ってもらったと両親も言ってましたし。むしろ感謝の気持ちしかないです。いまでもあの天蓋付きのベッドがあるなら私はそれだけでもうれしいし」
「そうか……怒ってはいないのか」
「もちろんです」


設楽シャチョーはいちど腕を解いた。そして右手で私の頭をポンポンとたたく。そしてふたたび包み込むように優しく抱き締めた。


「その天蓋付きベッド、見たいか?」
「え? ご存じなんですか?」
「いや……なんでもない」
「シャチョーってもしかして」
「なんでもないと言っているだろう」


むぎゅ。再び強く抱き締められた。だめだ、やっぱりいけない。オーナーだから私に気遣っているんだとしたらバリキャリ女史に申し訳ない。


「こ、こんなことしたらバリキャリさんに、あの……」
「宮下のことか?」
「はい」
「なぜ宮下を気にする? 無事だと言っているだろう」
「じゃなくて。その。設楽シャチョーってバリキャリさんとつきあってるんですよね?」
「はああ?」
「だから美男美女のカップルかと思いまして」


突然、彼の胸が震えだした。ははは、と笑っている声が聞こえる。私は彼の腕の中で彼の顔を見上げた。
にこりとほほ笑むシャチョー。

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