俺様社長と付箋紙文通?!
「お前はウォールとつきあってどのくらいになる?」
「つきあう?」
「ああ。恋人としてだ」
「こ……ぷぷぷ」


突然サキホが笑い出したので俺は立ち止まった。


「なにを笑っている」
「ウォール社長と恋人としてつきあってもないし、つきあったこともありません」
「ハニーではなかったのか?」
「ウォール社長は昔から私のことをハニーって呼んでるんです。かわいい妹分、みたいな感じで。付き合ってるように見えましたぁ?」


なんか心外、と咲帆はぷうと少しだけ頬を膨らませ、石畳の上の小石をこっそりと蹴飛ばした。怒っているようだ。


「じゃあ、今お前はフリーなのか?」
「え?」


サキホは俺を見上げた。どうしてそんなことを聞くのって、顔で。
好きだからだ。好きだからに決まっているだろうが。


「つきあってる男はいるのかと聞いてるんだっ」
「い、いえ。いません」
「フリーなんだな?」


サキホの顔はとたんに赤くなった。そして恥ずかしそうにうなずいた。それって俺を意識していることと解釈していいか? ああもう、反則だ! 反則過ぎる!!


「なら……いい。行け」


ドーナツカーには管理人室長の田中と玉ねぎ娘がサキホの代わりに店番をしていた。愛しのサキホは小走りでふたりのもとにむかう。そして振り返り、俺に一礼すると店先の整理を始めた。



*−*−*

な、なんだったんだ、今の会話。私の心臓はうるさく音を立てる。フリーなのか、って。それに医務室では恋人みたいに甘い雰囲気だった。ひいいい。


「どうしたの咲帆さん」
「な、なな、なんでもない」
「設楽社長になにか言われたの」
「い、い、い、言われてない」


テツ子さんは、わかりやすぅ、とクスクス笑いながら私に売上金の入った箱を手渡した。管理人室の田中さんはきょとんとしていた。ふたりとバトンタッチをして店じまいをした。ドーナツカーに荷物をしまい込み、ツリーをビル脇に寄せた。そうだ、設楽シャチョーの短冊をこっそりのぞいてみよう。たくさんつりさげられた丸いカードの中から私は紫がかったインクの筆跡を探した。


「あった! え?」



“愛するSが幸せになれますように。陰ながら見守る”


なにこれ、どういう意味だろう。どう考えてもつきあっている女性に対するメッセージではない。子どもがいるとか?

S、S、S……咲帆のS

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