少女に野獣。
「では、今後の契約につきましては改めて御社に伺わせて頂きます」


「分かりました。泉-イズミ-にもそのように伝えます
じゃあな、おチビ!今度は俺の会社で会おうぜ」


ブンブンと手を振り、騒がしく帰って行った芦屋さん


私にも、安藤さんに話したみたいに敬語が良かったです…


そうじゃないと、隣にいる彼のこめかみに、怒りマークが増えてしまうから…


隣の空気が冷たくなるのに気付いたのは、決まって芦屋さんが私と話す時だった


「美依恋、、おいで」


2人きりになると、呼び捨てになる糸夜さん


理由は分からないけど、その事に気付いた時、何だか少し嬉しかった


"嬉しい"と思ったのは、どうしてなんだろう…?


"おいで"と言われなくても隣にいたから、少しだけ距離を縮めれば、


「触れても……良いかい、?」


長い腕を私の腰へ巻き付ける直前でピタリと動きを止めた彼は、私と目を合わせずにそう聞く


本当は、糸夜さんと2人きりにはなりたくなかったんです…


ここから逃げ出そうとしたことを咎められるかもしれない不安よりも、あんなことをした糸夜さんという人が怖かったから…


だけど、、


今の彼に、そんな恐怖は微塵も感じられなかった


だから…


「ッ……!?」


糸夜さんの膝の間に飛び込んで、いつも紺野さんにするみたいに首へ腕を回した


道端に捨てられた仔犬の様な彼の瞳は、無理やり言うことを聞かせようとしたあの時みたいな強い瞳ではなくて、ゆらゆらと揺れている


昨夜の事を許したわけではないけれど、どうしてだか彼の事を嫌いになれないんです…


「ッ……悪かった、美依恋…、、…
……悪かった…ッ、、」


少し震える声で何度もそう謝るのはきっと、昨夜の事ですよね…?


何故あんなことをしたのかは、またいずれ教えて欲しい


今はただ、腕の中にいる糸夜さんに抱きつくので精一杯だから…




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