わたしは一生に一度の恋をしました
「今の家族をちゃんと幸せにしてあげてください。でも出来れば心の片隅でもいいから母のことを忘れないであげてください。母もずっとあなたのことを思っていたと思います。母は一度も恋人も作らず、わたしを可愛がってくれました。わたしが今まで幸せに生きてこられたのが証拠です」

 わたしは自分を指した。

 わたしは頭を下げるとその場を去った。もう高宮さんと二人で会うこともないだろう。蔑まれたままにならなくて良かった。

 わたしは歩を早めて歩き出した。瞳から涙が零れそうになった。だが、あと少しだけと思い、わたしは歩き続けた。

 ずっと会いたい気持ちはあった。だが、三島さんから実の父親の話を聞かされ、真一に知られ、もう忘れようと決意した。それでよかったはずなのに、なぜか分からないがわたしの目からは大粒の涙が溢れようとしていた。

 曲がり角を曲がったとき、わたしの涙腺は限界に達していた。わたしの瞳から一気に涙が溢れ出した。

「お父さん」

 その精一杯の言葉は、冷たい空気の中に飲み込まれていった。

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