わたしは一生に一度の恋をしました
「じゃあね」

 あれほど恋焦がれたのに、わたしはこの場から逃げ出そうとしていた。
 心ではこれではいけないと分かっているのに、気持ちが追い付かなかった。

 だが、わたしの腕が突然背後からつかまれた。

「元気だったか?」

 不意に投げかけられた三島さんの一言がわたしの体に染み込んでいった。

 ずっと聞きたかった声。そして、そのぬくもり。

 なぜ今でもわたしの心をこんなにかき乱すのだろう。その理由は分からない。ただ、明白なのは、わたしはこの人のことがやはり今でも好きなのだろうと改めて実感した。

「元気」

「泣いている?」

 わたしは頷いた。

「いざこうして会うと何を言っていいか分からないのも変な感じだな。言いたいことはたくさんあるはずなのに」

 彼が涙声になっているのに気付いた。

 まだあいつはほのかを思っているよ。

 真一のそんな言葉がわたしの脳裏を過ぎる。

 もしそれが当たっていたとしたら、辛いのはわたしだけではないのに。

 わたしは唇を噛むと、三島さんの手に自分の手を重ねた。そして、彼の手を離すと、振り向いた。

 彼は確かに昔と変わっていなかったが、少しやつれた印象を受けた。

 彼が過ごしてきた時の重さを感じる。だが、それはわたしにも言えることなのかもしれない。

 その彼の目が潤んでいるのに気付いた。

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