物語はどこまでも!
「救いようがないからな、俺は。でも、この子はまだ救いようがあるだろう」
今でも、『おとうさん、おかあさん』と涙を伝わせながらここにはいない家族に思い馳せる子。
「いくら、どの世界にもいなかったとしても
あちらにはこの子の家がある。大好きな家族の思い出がある。俺しかいないこんなところよりは、よっぽどいいだろう」
『選択を間違っているって言うよりは、貧乏クジを引くタイプだわねー。あ、いえ、タイプですね。でも責められない想いです。自身の幸せを投げうってでも、他人のために行動するのは満たされている証拠。人はね、自身が幸せだとその分周りに優しくなれるのですよ。これぞ、正にかの方が求める世界の在り方でーー』
「かの方に語らせたくない俺だけの思いだよ、これは」
ページを捲る。嫌みな文字しか浮かび上がらないから燃やしてやろうかとも思ったが、いつの間にか女の子の落書き帳にされていたのだからそれも出来なくなった。絵の内容はもっぱら、彼と過ごした日々が描かれている。
宝物でも見るように、彼がその落書きを見ていれば、膝上の女の子が起きた。
「ごめん、起こしたね」
女の子と出会ってから、非常に丸くなったと住人たちから言われたが自覚はあまりない。
唯一の存在に優しくするのは当然だろうと彼は今も母親さながら、女の子に接していた。
「セーレさんっ」
ひしっと、抱き付く女の子。いいこいいこと撫でて、次はどこの本に入ろうかとなるのがいつもの定番。けれど、今日は。
「雪木。もう、夢から覚める時間なんだ」
お別れを告げなければならない。
なるべく女の子が分かりやすく、傷つかないように言葉を選んだつもりだったが、こちらの悲しみが伝わったのか表情が曇っていく。
「おきてるよ。だからいっしょいて。こやぎさんたちとあそびたい。まめのき、のぼりたい。あと、あと。おしろ、いきたい。このまえ、ゆびきりした。あそこでケッコンしてくれるって!シンデラみたいに!」
もっと一緒にいたいという女の子には微笑みかけなければならないのに、今回ばかりは上手く作ることが出来ない。
「ダメなんだ、雪木。ここにいたら、君はずっとお父さんとお母さんのことを引きずったままーー泣いたままでいてしまうから」
一人にぼっちになったからと、いきなり両親の思い出から切り離された場所に連れてきていいわけがなかった。順当(成長)を経て理解していかなければならないことを、女の子はきちんと受け止めることなく来てしまった。だからこそ、寝ている時に泣いてしまう。どんなに慰めようとも。
「またね?」
「どうだろうね」
「ばいばい、いや」
「俺も嫌だよ。けど、起きたら全部、忘れているだろうから」
小さなこの子に、これ以上別れの記憶を植え付けることもないだろう。いつも通りに目覚めて、両親のことで涙して、けど、それでも時は過ぎていき、両親のことを受け入れて、成長して、いつまでも優しいまま、約束された幸せな世界で、俺がいない世界で。
「元気にしているんだよ」
笑顔で居続けてほしい。
君が、そうであると思えば、自身も幸せであれる気がしたから。
お別れの言葉を口にしたはずだったが、手を繋がれた。
「セーレさんは?」
「元気にしているよ」
ふるふると首を横に振られる。握られた手は離れることはなく。