イジワル社長は溺愛旦那様!?

となると自分はていよく追い出されるわけだが、もともと卒業したら出て行こうと思っていたので、それほどショックはなかった。ずっと、いつかこんな日が来ると覚悟していた事態だった。
だがこの状況は、想像していなかった。


(ビックリした……けど……)


自分以上に戸惑っているのはこの弟のはずだ。

とりあえず自分は成人し社会人になるが、朝陽はまだ中学生で、保護者の庇護がなければ生きていくこともできないのだから。


(あたりまえだけど、すごく不安だろうな……)


夕妃はテーブルの上に身を乗り出し、朝陽に話しかけようと口を開いた。


「あの……」


その瞬間、ほぼ同時に、

「――てめぇの息子じゃねえのかよ……っ」

絞り出すような声がして、夕妃は息をのんだ。


先ほど母が『あんたの弟なんだから』と言って逃げたことを思い出した。


朝陽の目から、ポタポタッ……と、テーブルの上に、水滴が落ちる。

初めましてとか、これから仲良くしようとか、いろんな言葉が夕妃の中から零れ落ちていく。

夕妃は席から立ち上がり、朝陽の隣に腰を下ろす。
そしてただ無言で、涙をこぼし続ける朝陽の隣にいた。

夕妃にとって、この日、朝陽が絶対に守らなければならない宝物になった日だった。



< 133 / 361 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop