イジワル社長は溺愛旦那様!?

「これ、もらってもいいですか?」


こんなメモを?と思ったが、だめだというのも変な気がして、うなずいた。

神尾はメモを丁寧に破りとると、スーツの胸ポケットから銀色の名刺入れを取り出して、そこに折りたたんで差し込む。

どうするんだろうと首をかしげると、神尾は今度は両手をテーブルについて、夕妃を囲い込むようにして顔を近づけた。


「というわけで、今度から名前で呼んでほしいな」


(えっ!? というわけで!?)


「俺のこと、名字じゃなくて、名前で呼んでほしい」


(口に出せないのに?)


目が点になる夕妃だが、神尾は相変わらずの涼し気な笑顔を浮かべている。


「心の中でいいんですよ。それでも俺は、あなたに湊って呼んでほしい」


匂い立つような艶やかさでささやくと、さらに顔を近づけてきた。


(近い~っ!)


息をするのもためらわれるほど、神尾――湊との距離が近くなる。


「あれ、驚いてますね。どうしてですか? 言ったでしょう。あきらめないって」


(確かに言ったけど……でも、その、えっ!?)


夕妃は目を丸くする。

神尾の作り出したこの流れについていけない。


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