イジワル社長は溺愛旦那様!?

確かに彼は、夕妃に対して早く治せとも言わない。
過度に憐れみを向けてこない。
むしろ夕妃の声が出なくても、『普通』に話しかけてくる。

そしてあなたが欲しいと、熱っぽくささやく――。


(湊さんといると、声が出ないなんて大したことじゃないような気がしてくるから、困る……)


夕妃が思いつめやすい性格だとわかっている朝陽ならまだしも、彼はそうではないはずなのに、なぜこんな風に一緒にいて居心地がいいのだろう。不思議だった。

夕妃はそれからいくつかメッセージのやり取りをして、スマホをテーブルの上に置いた。

ふと窓の外に視線を向ける。

今日はよく晴れているせいか、遠くまでよく見える。

だがその景色は、やはり夕妃にはなじみの薄い景色だった。


(湊さんのことが好き……それはもうはっきりしている。湊さんも、私のことを求めてくれている。先のことなんて考えるのはよそう。今、この瞬間だけで充分だ。嬉しい。恋を知ることができて、本当に良かった。だから私は、勘違いも思い上がりもしてはいけない……)


そう――だから大丈夫。

夢の期限はわかっている。

これ以上のことを望んだりしない。



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