イジワル社長は溺愛旦那様!?
その後、閑が作成した書類に署名捺印をし、用件は早々に終わった。
「では事務所に戻って、手続きを進めさせていただきます」
書類をバッグにしまいながら、閑は立ち上がる。
「職場のほうはあっさり済むと思うよ。もともと結婚して退社予定だったわけだし、有休消化で退職が早まるだけのことだ」
結婚したら専業主婦になってほしいと、婚約者に言われていた夕妃は、彼の望みを受け入れていた。春の繁忙期が終わったらという約束で、やめる予定だったのだ。
(よろしくお願いします)
夕妃は深々と静かに頭を下げた。
職場の人間関係はよく、正直未練もある。戻れるものなら戻りたい。
だがこの状況で続けられるはずがない。
直接謝罪することもできない今、丸投げすることに抵抗はあったが、こうなるとやはりホッとする気持ちは否めなかった。
「なにかあったら俺に連絡を」
玄関まで閑を見送りながら、湊が名刺を差し出す。
「それ、プライベートとは別の、社用の携帯番号だ」
「うん、わかった。あとさ、今度改めて夕妃さんを紹介してよ。兄ちゃんたち、喜ぶと思うよ」
その言葉に、夕妃はちょっとドキッとする。