イジワル社長は溺愛旦那様!?

その思いは、なによりも夕妃に勇気を与えてくれた。


(頑張ろう……私、いつまでもメソメソしていられない。勇気を持つんだ。こんな風に愛してくれる湊さんや、私を支えてくれる朝陽くん、みんなのためにも、私が自分の意思をしっかりともたなければ、私は誰も、幸せになんかできない……)




それから夕妃は、まず自分の声に向き合うことにした。
いつまでもマンションにこもっているわけにはいかない。病院にも行って、きちんと治療を受けることにしたのだ。

薬を飲み、自律神経を整えるために規則正しい生活を心がけ、同時に、発生の練習をする。声が思うように出せないからと黙っているのもよくないらしい。
そうやって地道に十日ほど訓練を続けていくうちに、か細い囁き声ではあるが、以前よりも少しだけ声が出るようになってきた。



病院から戻ると、ちょうど朝陽も帰ってきたところだった。

通常ならまだ部活があるのだが、今週末、いよいよ寮に入ることが決まって、その準備のために以前、ふたりで住んでいたアパートとここを行ったり来たりしているのだ。

夕妃も荷造りを手伝うと申し出たのだが、あっさり朝陽には「荷造りくらいできるから」と断られてしまった。

(寮に入るまででも、もう少し頼ってくれてもいいのに……)


そんなことを思いながら、冷蔵庫を開けて中を凝視している朝陽に声をかける。


「ただいま」


< 251 / 361 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop