イジワル社長は溺愛旦那様!?
その思いは、なによりも夕妃に勇気を与えてくれた。
(頑張ろう……私、いつまでもメソメソしていられない。勇気を持つんだ。こんな風に愛してくれる湊さんや、私を支えてくれる朝陽くん、みんなのためにも、私が自分の意思をしっかりともたなければ、私は誰も、幸せになんかできない……)
それから夕妃は、まず自分の声に向き合うことにした。
いつまでもマンションにこもっているわけにはいかない。病院にも行って、きちんと治療を受けることにしたのだ。
薬を飲み、自律神経を整えるために規則正しい生活を心がけ、同時に、発生の練習をする。声が思うように出せないからと黙っているのもよくないらしい。
そうやって地道に十日ほど訓練を続けていくうちに、か細い囁き声ではあるが、以前よりも少しだけ声が出るようになってきた。
病院から戻ると、ちょうど朝陽も帰ってきたところだった。
通常ならまだ部活があるのだが、今週末、いよいよ寮に入ることが決まって、その準備のために以前、ふたりで住んでいたアパートとここを行ったり来たりしているのだ。
夕妃も荷造りを手伝うと申し出たのだが、あっさり朝陽には「荷造りくらいできるから」と断られてしまった。
(寮に入るまででも、もう少し頼ってくれてもいいのに……)
そんなことを思いながら、冷蔵庫を開けて中を凝視している朝陽に声をかける。
「ただいま」