イジワル社長は溺愛旦那様!?

「おう、おっかえりー。てか声、だいぶ出るようになったじゃん」
「ん……電話は、無理だけど……静かなところなら」


ほぼ囁き声しか出ないので、長身の朝陽が夕妃の声を聞くときは、まるで子供の声を聞くかのように身をかがめなければならない。

だがだが朝陽は「よかったなー」と笑って、そのまま夕妃の頭をくしゃくしゃと撫でまわした。


「うん……」


自分でも少し希望が見えたところだ。
褒められたことが嬉しくて、ついニマニマと笑ってしまう。


「お腹、空いた?」
「ホットケーキ食べたい。めっちゃ重ねたやつ。バナナが入ってて、バターとはちみつたっぷりのやつ」


昔から朝陽は夕妃が焼くホットケーキが大好きだった。ホットケーキミックスでも、小麦粉でもいい。だが残念ながらバナナもベーキングパウダーもなかった。
残念ながら懐かしの味を作ってやれそうにない。


「……プリンにしない?」


妥協案を出すと、「えー、ボールいっぱいじゃないと腹が膨れないんだけど」と笑いながら、うなずいた。



さっそくふたりでキッチンに立つ。
フライパンで湯煎して作る簡単なプリンだ。


「婚姻届、いつ出すんだっけ?」
「朝陽くんが、寮に入る日」
「今週末かよ。わざと?」
「うん。みんなの、お祝いの、日になるから」
「ブラコンにもほどがないか?」


朝陽は笑うが、大事な弟の旅立ちの日と、自分の結婚記念日が同じなのは、素直に嬉しい。


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