イジワル社長は溺愛旦那様!?
「もっとしてほしかったら、おねだりしてごらん」
ちなみに、少しずつ声が出るとわかってから、湊は夕妃に意地悪な問いかけをするようになった。
意地悪だと涙目になると、「リハビリを手伝ってるだけ」と爽やかに微笑むのだ。
だから夕妃は少しずつ、湊の要求に応えるようになっていた。
「もっと、して……」
「――」
湊は無言で夕妃を見つめている。無言の圧力に、たまらない色っぽさを感じる。
なんでもいい、反応が欲しくて、また声を振り絞った。
「キス……して」
「わかった。夕妃の望み通り、してあげる」
湊は夕妃の頭の後ろを抱えて、そのままベッドに横たわらせる。
そしてまた優しく、触れるだけのキスをした。
湊とは、まだキス以上のことはしていない。だが、その肝心のキスが心も体もとろけるようなキスなのだ。
そう遠くない日、この先を知ってしまったら、いったい自分はどうなってしまうのだろう。
朝陽の寮に入る日が決まった。
入籍もする。愛する湊と、本当に、夫婦になる。
声も多少だが出るようになった。
ちゃんと話せるようになったら、どこかで働く。
そして穏やかな日々を過ごす。
少しずつすべてがうまく回っていく。
幸せすぎて、少し怖いくらいだ……。
湊の甘い意地悪に身を任せながら、夕妃はゆっくりと目を閉じ、眠りに落ちて行った。