イジワル社長は溺愛旦那様!?
その後、婚約時に初めて会った、桜庭の両親は息子よりもずっと凡庸に見えた。
そして終始、息子の機嫌を損ねないように気遣っているようだった。
さすがに何十年も息子を育ててきて、彼のどこか留め金を掛け違えたような人となりを、わかっているのかもしれない。
そしてわかっていて、どうにもできないでいる――。
だが自分だってそうだ。
桜庭の機嫌を損ねないことが弟を幸せにすることだからと、桜庭の顔色ばかり見ている――。
そして、最初は結婚を喜んでくれたはずなのに、夕妃の様子をおかしいと思った朝陽に結婚の意義を問いただされても、これは自分の意志だと突っぱねている。
悲しい顔をさせたくて結婚を選んだはずなのに、朝陽を悲しませている。
だから、何とかしなければいけないような気がするけれど、頭が動かない。
「夕妃、あんたは俺の言うことをきいていればいいんだよ」
桜庭は毎日そうささやく。
折に触れ、人目のないところで、手首や肩をぎゅっとつかんで、その気になればもっとひどいことでもできると言わんばかりに、呪いの言葉を吐く。
意志はいらないと言いながら、この現状を選んだのは夕妃なのだと言い聞かせる。
「これでみんな幸せになれるんだ。よかったね」
そう、これは私の意志なんだ。
幸せになれる……だから、桜庭の思うように、すればいい。
私に言葉はいらない――。