イジワル社長は溺愛旦那様!?

涙は止まらないが、出なければ余計心配させる。ここは間違ったと言い張るしかない。


「ごっ……ごめん、なさいっ……」


電話を取り、夕妃は真っ先に謝罪の言葉を口にしていた。


《夕妃?》
「ごめん、なさっ……間違って、押して……」


全身から汗が噴き出していた。


《――本当に? なにかあったわけじゃなくて?》
「ないっ……」


夕妃はスマホを握りしめたままブンブンと顔を振った。


《もう少し早く帰ろうか?》


今日はいつもより少し早く帰ると湊も約束してくれている。これ以上早くというのはいくらなんでも申し訳ない。


「いいです、ごめんなさいっ、部屋にいるから大丈夫ですっ、切りますっ……」


何度も謝りながら、通話を切る。

夕妃は両手で顔を覆い、そのままずるずると床に寝そべった。


(落ち着いて……ここに桜庭さんはいない……ここは、安全……!)


そうやって何度か自分に言い聞かせていると、体から徐々にこわばりが取れていく……。

おそらく一時間くらい横たわっていただろうか。

視界も元通りになり、息もできるようになった。



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