イジワル社長は溺愛旦那様!?

「はぁ……」


ゆっくりと息を吐く。
そして吸い込む。


「だい、じょう、ぶ……」


声も、何とか出る。
また出なくなるのではと焦ったが、夕妃はホッと胸を撫でおろしていた。

そこでピンポーンと、玄関からチャイムの音が聞こえた。


(食材がもう来たのかな……)


夕妃はぼんやりした頭のまま、なんとか腕をついて床から上半身を起こす。するとガチャリ、と鍵が開く音がした。


「えっ……?」


音のしたほうに目を凝らすと、ドアが開き、湊が慌てた様子で入ってくるのが見えた。
そして床に座り込んだままの夕妃を見て、声をあげた。


「夕妃っ!」
「……あ」


彼はバタバタと一目散に部屋にあがり、夕妃の前に座り込む。


「様子がおかしかったから気になって」


そして床にひざまずき、夕妃の顔を両手で包み込んだ。
よっぽど急いで戻ってきたのだろう。珍しく肩で息をしていた。


「涙の跡がある」
「な……泣いて、なんかっ……」


慌てて視線を逸らすが、湊はクスッと笑って、首を振った。


「毎晩夕妃をキスで泣かせてる俺が、気づかないわけないだろう」


そして湊は、じっと夕妃を見つめる。


「夕妃……」


(なに……?)


< 285 / 361 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop