イジワル社長は溺愛旦那様!?
「はぁ……」
ゆっくりと息を吐く。
そして吸い込む。
「だい、じょう、ぶ……」
声も、何とか出る。
また出なくなるのではと焦ったが、夕妃はホッと胸を撫でおろしていた。
そこでピンポーンと、玄関からチャイムの音が聞こえた。
(食材がもう来たのかな……)
夕妃はぼんやりした頭のまま、なんとか腕をついて床から上半身を起こす。するとガチャリ、と鍵が開く音がした。
「えっ……?」
音のしたほうに目を凝らすと、ドアが開き、湊が慌てた様子で入ってくるのが見えた。
そして床に座り込んだままの夕妃を見て、声をあげた。
「夕妃っ!」
「……あ」
彼はバタバタと一目散に部屋にあがり、夕妃の前に座り込む。
「様子がおかしかったから気になって」
そして床にひざまずき、夕妃の顔を両手で包み込んだ。
よっぽど急いで戻ってきたのだろう。珍しく肩で息をしていた。
「涙の跡がある」
「な……泣いて、なんかっ……」
慌てて視線を逸らすが、湊はクスッと笑って、首を振った。
「毎晩夕妃をキスで泣かせてる俺が、気づかないわけないだろう」
そして湊は、じっと夕妃を見つめる。
「夕妃……」
(なに……?)