イジワル社長は溺愛旦那様!?
「こわ、かったっ……」
夕妃は、絞り出すように声を出す。
たった一言。その一言を口にするのに、どれだけ時間がかかっただろう。
「すごくっ……怖かったっ……」
わなわなと、唇が震えた。
「うん……うん」
湊はわかっているというふうに、小さくうなずいた。
「私っ……ずっと、ずっと……朝陽くんを、失いたくなくてっ……ちゃんと、お父さんのぶんもっ、お母さんのぶんもっ、ちゃんと、朝陽くんをみなきゃって、私が、我慢すればいいんだからってっ……怖かったけどっ……すごく、すごく、怖かったけどっ……あのひとから、にっ、逃げ出せなかったぁっ……ううっ……ううっ、うう、うわぁぁあ……!」
目の奥から、まるで壊れた涙が噴き出した。
そして自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。
「たすけてっ……助けてっ……!」
叫びながら、夢中で湊の胸にしがみついた。
しがみつかなければ、悪意の波にさらわれて、溺れて死んでしまうと思ったから。
「――夕妃」
背中に湊の腕が回る。
ぎゅうっと抱きしめて、それから優しく、ブルブルと震える夕妃の背中をなでる。
「大丈夫だ……もう、大丈夫だよ……俺が側にいる。大丈夫だ」