イジワル社長は溺愛旦那様!?

「こわ、かったっ……」


夕妃は、絞り出すように声を出す。
たった一言。その一言を口にするのに、どれだけ時間がかかっただろう。


「すごくっ……怖かったっ……」


わなわなと、唇が震えた。


「うん……うん」


湊はわかっているというふうに、小さくうなずいた。


「私っ……ずっと、ずっと……朝陽くんを、失いたくなくてっ……ちゃんと、お父さんのぶんもっ、お母さんのぶんもっ、ちゃんと、朝陽くんをみなきゃって、私が、我慢すればいいんだからってっ……怖かったけどっ……すごく、すごく、怖かったけどっ……あのひとから、にっ、逃げ出せなかったぁっ……ううっ……ううっ、うう、うわぁぁあ……!」


目の奥から、まるで壊れた涙が噴き出した。

そして自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。


「たすけてっ……助けてっ……!」


叫びながら、夢中で湊の胸にしがみついた。
しがみつかなければ、悪意の波にさらわれて、溺れて死んでしまうと思ったから。


「――夕妃」


背中に湊の腕が回る。
ぎゅうっと抱きしめて、それから優しく、ブルブルと震える夕妃の背中をなでる。


「大丈夫だ……もう、大丈夫だよ……俺が側にいる。大丈夫だ」



< 287 / 361 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop