イジワル社長は溺愛旦那様!?
(あったかい……)
床に座ってあぐらをかいた湊の膝の上に、夕妃は頭を乗せていた。
膝に手を乗せ、その手の甲に、ぎゅっと頬を押し付けて、まるで子供のように湊にくっついていた。
背中は相変わらず湊が撫でてくれていて、時折髪に触れて、指で梳く。
「夕妃の髪はきれいだね。サラサラして……本当にきれいだ。ずっと撫でていたくなる」
そうやって美しい言葉をかけられて、優しく触れられていると、自分という存在が、とても大事なもののような気がしてくる。
いや実際、いつもこうやって湊が自分に触れてくれるから、自己嫌悪だらけになっても、自分を心底嫌いにならなくて済むのだ。
「……ありがとう」
夕妃はささやく。
そしてゆっくりと顔を上げ、湊を振り返った。
「もう大丈夫」
「夕妃……」
湊は髪を撫でていた手で、今度は夕妃の頬の上に指を滑らせる。
心だけではなく、不思議と体も軽かった。
「喉も……苦しくない……」
そっと、自分の首にふれた。
そこにはずっと、何か月も桜庭の見えない手があったのだ。
けれど今はそれを感じない。
湊に『怖かった、助けて』と、子供のように助けを求めて初めて、ようやく夕妃を縛り付けていた彼の呪いが、消えたような気がした。