イジワル社長は溺愛旦那様!?

「基さん、残念だったね」


残念ながら、基は出産を終えた妻をひとりにはできないという理由で不参加だ。


「いや、別に。夕妃のウェディングドレス姿を見て、ゆるみまくった顔をあいつだけには見られたくなかったからよかった」
「そんなこと言って……」
「いや、あいつだって、誰にも沙耶さんのドレス姿を見せたくないなんて理由で、ふたりっきりの結婚式を挙げたんだぞ。だからお互い様だ」


湊は笑って、後ろに伸びたドレスの裾をかきわけながら、夕妃を包み込むようにして抱きしめた。


「ああ、本当に夢みたいにきれいだな……」


夕妃のドレスを選んだのは、湊だ。
女性らしいラインがとても美しく、なんと胸のあたりは真珠が縫い付けられている、かなり豪華なドレスだった。

夕妃は無言で、背後の湊に体を預ける。


(一年前、こんなことになるなんて、誰が想像しただろう……)


考えることをやめて、いろんなことを諦めた。自分さえ我慢すればいいと、自暴自棄にもなった。
けれど湊に出会って、それは違うとやっとわかった。
自分の人生は、自分で決めなければいけないのだ。
それが責任をもつということなのだ。
大半の人間ができているはずのあたりまえのことを夕妃はずっと、知らなかった。


「ねぇ、湊さん」
「ん?」
「これからもずっと、側にいて。私の憧れで、目標でいてね。私が間違っていたら、ちゃんと話をしてね」
「夕妃……」


夕妃を抱きしめる湊の腕に、力がこもる。


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