溺甘プレジデント~一途な社長の強引プロポーズ~
「他に、友達とか家族とか、誰かにお祝いしてもらった?」
「いえ、まだ……明日ですし」
と言い切るまでに、社長の両腕がキーボードへ。必然的に包み込まれている状況に、屋上の一件を思い出してしまう。
編集画面に並べた文字を残し、なるべく早く帰るようにと言って社長がフロアを出て行った。
――1番に祝えてよかった
思わず、机に両肘をつき、広げた手のひらで顔を覆う。
熱くてやけどしそうな身体の奥は、ドキドキと大きく脈を打っているようだ。ようやく呼吸を戻したのに、清潔感のある香りがほんのり左側に残っていて、この数分の出来事に頬がゆるんでしまった。
どうするのが正解なんだろう。
振られても態度を変えることなく、それどころか優しく接し続けてくれている彼が、時々こういうことをするたびに、少し惹かれそうになる。
桃園さんと別れたからといって、社長に乗りかえるようなことはあってはならない。
そんなことは解っていて、今後を考えれば自ずと答えは出てくる。
だけど、何もしないでいられるほど、私は無情な女ではなくて……。