今夜、きみを迎えに行く。




「ああ、行っておいで」



トミーさんが言った。たぶん、トミーさんはわたしが泣いていたことに気付いたと思う。
だけど、トミーさんもやっぱり、ちゃかしたり、からかったり、慰めたりはしなかった。
泣いてることになんて気付いてない、そんな顔をして、わたしを送り出してくれる。



「気をつけて、葵」



「気をつけて」



トミーさんとシュウがわたしに向かって手をふった。わたしはシュウの姿をしっかり目に焼き付けて、小さく頷いて店を出る。

自転車にまたがって、思いきりこいだ。



川沿いの道を、シュウにバイクで送ってもらった道をひたすらにこいだ。
向かい風が今日は逆に心地よかった。冷たい風が火照った顔を冷やしてくれる。



この街の景色が好きだと思えるようになったのも、シュウのおかげだ。



わたしはあの場所で、喫茶ブランカで、シュウを待っていようと思う。
シュウは必ず約束を守ってくれるから。
次に会うときまでに、シュウの大切なひとに負けないくらい、素敵な人になっていよう。



わたしの新しい課題。シュウがくれた目標だ。




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