今夜、きみを迎えに行く。
7*lavender









祖母が亡くなったのは、ちょうど、その日の晩のことだった。



わたしが祖母に会いに行くと、祖母は珍しく酸素マスクを外していた。
病室のドアを開けると祖母がわたしを見て笑った。
久し振りに見た祖母の笑顔。



祖母に付き添っていた母親の目頭が、少し赤くなっている。よくわからないけれど、その顔から祖母の状態は良くないのかもしれないとわかった。



「おばあちゃん、葵だよ、わかる?」



祖母に顔を近付けて、顔を見せる。管の通った祖母の冷たい手を握ってみる。



「ぉ…あお…」



祖母が口を開いて絞り出すように声を出す。苦しそうだけれど、顔は笑顔で目はしっかり笑っている。



「…ぁお…」



「…うん、葵だよ、おばあちゃん」



祖母は横たわったまま頷いた。わかってくれている。そう思った。おばあちゃんの冷たい手は、骨ばっていて固かった。

昔はあんなにもふっくらとした、艶のある手をしていたおばあちゃん。


いつも誰かのために働いていた、おばあちゃんの手。


自分のことはいつも後回しで、家族のことばかり考えてくれていたおばあちゃん。


大好きなおばあちゃん。


一緒にスーパーに買い物に行くと、内緒でお菓子やたこ焼きを買ってくれたおばあちゃん。


わたしのことを、愛情たっぷりに育ててくれたおばあちゃん。



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