今夜、きみを迎えに行く。
誰かにこんな風に、優しく受け入れてもらったのは一体どれくらいぶりだろう。
雰囲気が良いとか、声が良いとか、要するに地味で目立たないところが良い、と言われたのと同じことだとは思うけれど、それで良かった。むしろそれが、嬉しかった。
うちに来て欲しい。きみに。
そんな風に、誰かに必要とされることが、こんなにも幸せなことだなんて、わたしはずっと長い間、忘れていたような気がする。
わたしはその人の差し出した手を取って、頭を下げる。
「…あの、よろしくお願いします」
「ぼくは藍沢富雄、トムとかトミーさんって皆からは呼ばれてる。きみは?」
富雄さん、確かにこの人には、トミーさんのほうがずっと良く似合っている。わたしは思わずくすりと笑った。
「葵です。桐野葵。高校二年生です」
「そうか、よろしくね。葵」
トミーさんに最初から、葵、と呼び捨てにしてもらったことがなぜかとても嬉しかった。