今夜、きみを迎えに行く。








トミーさんの店でアルバイトを始めて一週間。


わたしは毎日、学校帰りにそのまま店に行き、白いシャツと黒いエプロンに着替えて店のカウンターの中に立っていた。


お客さんはほとんどといっていいほど来なくて、店はとても暇だった。


たまに来るお客さんといえば、トミーさんの音楽仲間だというお洒落なおじいさん連中と、近所のお屋敷に住んでいる、恐らく昔はものすごい美人だったであろうおばあさん。


トミーさんは、音楽仲間のおじいさん連中がやって来るとしばらくコーヒーを飲みながらお喋りをしたあと、必ずそのまま彼らと一緒にどこかへ出掛けて何時間か店を留守にした。
留守中にお客さんが来るとわたしはトミーさんに電話して、すると、トミーさんはすぐにどこからか駆けつける。


お屋敷のおばあさんが来ると、トミーさんは彼女に頼まれてピアノを弾いた。



店のメニューはコーヒーと紅茶と、サンドイッチとナポリタンとパンケーキ。たったそれだけ。覚える必要もないくらい、簡単なメニュー。そもそもメニュー表なんてどこにもなかった。


わたしは本当に、ただそこにいるだけで良かった。わたしの仕事といえばトミーさんの留守中の店番と、テーブルを拭いたり店の中を掃除したり、コップを磨いたり。


どれも、トミーさんが何もしろと言わないものだから、わたしが勝手にやっていることだ。


店には昔のレコードが山ほどあって、わたしはそれを、好きに流していいと言われていた。レコードプレーヤーの使い方は、トミーさんが教えてくれた。


店にお客さんがいないときは学校の課題をしたり、トミーさんが作ってくれたおやつを食べたりもした。


トミーさんはびっくりするほど料理が上手で、気まぐれで作るパウンドケーキやオムライスは、なぜ定番メニューにしないのかわからないくらいに美味しかった。




< 17 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop