完璧な彼は、溺愛ダーリン
一歩一歩職場へと足を進める。
だけど、一歩進む度に重くなって行く気がした。
私も栞も早番。
だから、話すなら今しかない。
意を決して更衣室へ入ろうとした時、ちょうど栞が中から出てきて面喰った。
「あ、栞。おは――」
おはようという言葉は最後まで言えなかった。
栞は睨みつける事もなく、そこに私が存在しないかの如く無言で横を通り過ぎたからだ。
ギリっと奥歯を噛みしめる。
大丈夫、大丈夫。呪文のように私は心の中で何度も呟く。
こんなの、なんて事ない。
栞が受けた傷に比べたら。
仕方ない事なんだ。
着替えようと自分のロッカーの前へ立ち、扉に手をかける。
が、その手が震えている事に気付き私はすぐに引っ込めた。
動揺を隠す様に胸元に両手を置くと、私は何回か大きく深呼吸をした。
まさか、更衣室でかち合うと思っていなかったから出鼻を挫かれた感は否めないけど。
私はまだ気持ちを一切伝えていない。
そんなの、自己満足だって言われてしまえばそれまでなのだけど。
もう手は震えていない。
私は着替えると栞のいるフロントへと向かって行った。
受付の奥で栞は掃除をしていた。
朝の準備の一つ。
私はなるべく笑顔で「栞、おはよう!」と、声をかけた。