完璧な彼は、溺愛ダーリン
電話番号を渡して来るようなドラマみたいな展開はない。
それなら同僚と恋した方が余程リアリティある。
素敵な人がいないわけじゃない。
同じバイトの何人かの男子はとっても素敵だなって思うし。
インストラクターにだって素敵な人いるし、カッコいい人もいる。
だけど、胸がときめいたりしないんだよね。
今、仕事が楽しいから職場で恋愛を探したくないのかも。
ゴタゴタしたくないし、この和やかな空気を壊したくない。
「あ、ねえねえ、さっきねシャンプーが切れてたんだけど」
「え、本当ですか」
そう言って声をかけてきたのは、常連さんの東城さんだ。
湯上りみたいな恰好でロッカールームから受付まで来たらしい。
タオルを首にかけて、話しかけて来る。
50代だけど、ジムに通っているからか他の同年代の人より若々しいと思う。
髪の毛も黒々としている。……いや、これは白髪染めしているだけかも。
「三石ちゃんか、栞ちゃん、入れてくれる?」
三石は私の名前だ。下の名前は睦実。
栞は東城さんと結構話すから、下の名前で呼ばれている。
「はい、わかりました。睦実、行って来るね」
「大丈夫だよ、よろしく」
栞は頷くと東城さんと一緒にロッカールームへと向かった。
一人になった私はさっきまで折っていたチラシをまた折り始める。