強引部長の独占ジェラシー
それから私達は会場を出ると、タクシーに乗り込んだ。
部長は車内で特に何かを話すわけでもなく、静かに目をつぶっていた。
何を考えているんだろう。
元カノとの久しぶりの再会。
そして傷つけるような言葉。
部長は彼女を好きになれなかったと言っていたけど、それを気にしていなかったわけじゃない。
「今日、」
すると部長はゆっくり話し始めた。
「お得意先に挨拶に行ったが、お前の一生懸命さを褒める人は多くいた。
どんなに締め切りが近くても、何度訂正を求めても、クオリティーは落とさずに戻ってくると言っていたよ」
「えっ」
「俺もそれを聞いて嬉しくなった。何事にも一生懸命になれるのはお前のいいところなんだろうな……」
つぶやくように言った部長はひどく優しい顔をしていた。
今まで見たことのないその表情に思わずドキッと胸が鳴る。
こんな顔、見せられたら勘違いしてしまいそうになる。
「もう着くな」
すると部長は私が口を開く前にそう言った。
気づけば、辺りは見知った景色になっていた。車は会社の前で止まり、ドアが開く。
「すまないが、今日はまだ仕事が残ってる。お前はこのまま直帰するといい」
部長は最後にお疲れ様、と声をかけると、車から降りていった。