守りたい、不器用な人。~貴方と始める最後の恋~
「……山瀬さん、食べる時はお茶を用意しておいた方がいいです」

「え……?」

「……気絶しそうになるので」


小声で忠告をすると何事もなかったのように箸を動かした。
紫色の物をほんの少し口に運ぶ。
その瞬間、表現出来ないような味が口に広がっていく。


「……」


それを慣れた様にお茶で流し込んで、すぐさまお味噌汁を飲んだ。


「美味いか?」

「……いつも通りですね」

「そうか!」


敢えて美味しいとも不味いとも言わないのは、私とチーフの暗黙のルールだった。
そう考え込んでいればふとある事が頭に浮かぶ。


「そう言えば今日チーフは?」

「ああ、アイツは仕入れだ」

「あー……チーフの番でしたね」


上手い具合に大将の手料理から逃げられたチーフが心の底から羨ましい。
< 177 / 297 >

この作品をシェア

pagetop