ブラック・ストロベリー
「あっちに、新しい恋人ができて、自分に前まで見せてた特別な表情も仕草も全部、ほかの人のものになっても、それでいいの?」
ぎゅっと、心臓を掴まれたように、
その言葉にどうしても、想像するだけでくるしくて、視線をそらして息を吐いた。
7年間私だけだった、そのすべてが。
ほかのものになってしまう、なんて。
考えていたつもりだ、それが終わるということだって、頭ではわかっている。
けど、言葉にされてしまったら、わたしはもうそこから目をそらせなくなってしまう。
あの日、決めた決断が揺らいでしまうのは、わたしが結局弱くて狡いからだ。
「それが、向こうの幸せなら、」
いいんです。
吐き出した言葉とともに、頬に伝う涙を感じるのは、結局自分に嘘をついて強がっているからだろうか。
あの日、連絡ひとつだけよこして帰ってこなかったアイツが、このままわたしを置いて行ってしまうって。
そうやって家を飛び出して、無理やり吹っ切ろうとしてる自分と、置き去りにされた心が重なってくれない。
失恋、なんて言ってはいけない、
一方的に終わらせたのは私で、それなのに傷ついてる自分がいた。
「ヒナセは、強がりだ」
濡れた頬を優しく滑らせる指に、もうこのまま甘えてしまいたくなる。
まっすぐな言葉を、わたしが欲しいときにくれるこの人のことを好きになれるなら、わたしあ幸せになれるのだろうか。
わたしが泣いたら、馬鹿にするように笑って、
馬鹿じゃん、って無理矢理目尻をさすってくれた。
私の涙を拭くのは、もうアイツじゃないのだ。
優しくなでて、これ以上おっこちないようにと、ハンカチを当ててくれた藤さんはわたしの涙が止まった後、わたしに手を出すようにせがんだ。
おとなしく従って両手を目の前に差し出す。
そこに、一枚の紙きれがふわり、おとされた。