ブラック・ストロベリー
「弟くん、君に似て少しぶっきらぼうだよね」
驚いて顔を上げれば、藤さんはわたしと視線を合わせたと、思い出すように少し上を見上げて笑った。
「え、」
「君には会わずにこれ渡して帰っていったよ」
あの日実家に置かれたその一枚の紙切れを、わたしは触れずに置いていった。
陸は明日の朝、大阪につくってつい今朝メッセージ送ってきたじゃない。
ほんとうに、
ずうずうしくて、おせっかいな弟だ。
わたしがため息をついたのを確認すると、
可笑しそうに藤さんは笑った。
「伝言」
悔しいなあ、
そう言いながら、載せられた紙切れはもう一度藤さんの手に戻っていった。
その紙切れを追っていた、藤さんはそれをポケットにしまった。
「、なんですか」
時計を見た後、荷物を持って車内から出ていく藤さんに慌ててついていく。
私の先を歩いた数歩先で、こちらを見ずに真似をするように、そうやって。
「『バーカ』、だって」
誰の言葉かなんて、聞かなくてもわかった。
そう言うやつだ、言いたいことはすぐに言わないで、たまった途端に全部吐き出す。
すぐわたしにバカって言う、悪い癖。
元はといえば、わたしがアイツに使う言葉だったんだ。
わたしの口癖が、いつの間にか、アイツの口癖になっていた。
たったその二文字じゃ、思っていることなんて何一つわかりやしない。
今さら、何が言いたいのかなんてちゃんと言葉にしてくれない。
ポケットの中でケータイが震えた。
着信音は、陸のものだった。
「先に行ってるよ」
先を歩く藤さんに浅くお辞儀をして、その着信に出る。
「陸、あんた人の職場までなにしに、」
そこまで言って、電話口の向こうが息を吐いた。
それだけで、この言葉を聞いているのが誰かなんて、もうわかってしまった。