ブラック・ストロベリー
「深咲」
たった数日。
でもその数日さえ、こんなにもその声に触れなかったことがなかった。
その声が、わたしを呼んだ。
電話を切ることすらできなくて、ただ届いたその声にじわり、涙が滲んだ。
でも、ダメだ。
「、きる」
「待てよ」
さっき泣き止んで、腫れないように抑えた意味がもうなくなってしまう。
こんな顔で、戻れない。責任はきっと、取ってくれない。
「話すことなんか、ないよ、直接何にも言ってくれないくせに、」
なにが、バカだ。
私に会わずに、伝言だけ言い残して、会うより記憶に残ってしまうこと、絶対わかっているくせに。
その二文字だけで、誰かってわかるって、わかっているくせに。
「直接言わせてくれないのは誰だよ」
大好きだった、透き通る声が、耳元で、聴こえる。
その声だけで、わたしのこころの奥がそれを求めるように高鳴った。
息を吐く、吸う。
それだけで、この向こう側にいるアイツが、相当不機嫌だってこと、わかってしまう。
「深咲、」
その声で、そんな風に、呼ばないで。
好きだったんだ。
わたしを優しそうに呼ぶその声が。
落ち着くそのトーンが、心臓に響くから。
名前を呼ばれるだけで、この人がわたしのことを想っているってことが痛いほど伝わってくるから。